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私たちの考え・問題解決

「もっと頑張る」の前に、「何を解くか」を疑う。

第一原理思考はなぜ誰にでも役立つのか

誰にでも価値がある。けれど、誰にでも簡単に使いこなせるわけではない。

飯田 友広

「もっと頑張る」の前に「何を解くか」を疑う。目的・事実・制約を土台に施策を考え直す階段図

仕事が終わらないから、もっと効率よく働く。売上が伸びないから、営業活動を増やす。勉強が続かないから、もっと強い意志を持つ。AIが間違えるから、もっと細かく指示を出す。

私たちは問題に直面すると、今やっていることを改善しようとします。それは自然な反応ですし、多くの場合、正しいアプローチでもあります。

しかし、そもそも解こうとしている問題が間違っていたらどうでしょうか。

必要のない仕事を効率化しても、その仕事が速く終わるだけです。見込みの薄い営業活動を増やしても、疲労が増えるだけかもしれません。

一生懸命取り組んでいるのに成果が出ない。そんなとき、努力の量を増やすより、努力の向きを変える方が効果的なことがあります。

この「何を解くべきか」という問いに立ち返るために役立つのが、第一原理思考(First Principles Thinking)です。

私たちNetsujoは、AIやWebサービスの開発でこの考え方に何度も助けられてきました。「なぜ?」と繰り返すだけで本質へ到達するのは難しい。それでも、職業や立場に関係なく学ぶ価値があると考えています。

第一原理思考とは、問題を根本から組み立て直すこと

第一原理とは、物事を考えるときの出発点となる根本的な原理や事実を指します。実際の問題解決では、目的を明らかにし、確認できる事実と制約まで問題を分解し、慣習や思い込みに縛られず解決策を組み立て直すことだと捉えています。

例えば「会議が長すぎる」という問題。発言時間を制限したり、60分を30分に短縮したりする前に、「そもそも、この会議は何のために開かれているのか?」と問います。

情報共有が目的なら資料やメッセージで済むかもしれません。意思決定なら、判断する人と情報がそろえば、参加者を絞れます。意見の対立を解消する場なら、十分な対話時間が必要でしょう。

本当の目的を明らかにすることで、何を変え、何を残すべきか判断できるようになります。

なぜ、第一原理思考は有用なのか

1. 間違った問題への努力を減らせる

「問い合わせを増やすために広告を出そう」と決めれば、広告文やターゲティングの改善に意識が向きます。しかし原因は、サービスの価値が伝わっていないことや、問い合わせフォームの使いにくさかもしれません。

第一原理思考は、解決策を実行する前に、その解決策が必要になった理由を検証するために役立ちます。時間やお金を、本当に成果につながる場所へ使いやすくなります。

2. 見えていなかった選択肢が生まれる

「この業務には会議が必要」「分析には専用サービスが必要」「人間が行うしかない」。長く続く方法を、必要条件だと思い込むことがあります。

法律や安全性など守るべき制約と、過去の技術や組織の都合から生まれた慣習を区別する。そうすれば、仕事をやめる、手順を減らす、役割を変える、既存のものを再利用するという選択肢も見えてきます。

今ある方法を改善するだけでなく、方法そのものを選び直せます。

3. 自分で判断し、結果から学べる

誰かの方法をそのまま正解とする前に、目的を考え、事実を調べ、仮説を立て、試して、結果を見る。予想と違った結果からも、どの前提が違っていたかを学べます。

一度で正解を見つけること以上に、自分の判断を現実に合わせて更新できることに価値があります。

仕事や学習でも、第一原理思考は役立つ

例えば、残業が多い職場。「もっと速く働こう」と考える前に「何が時間を奪っているのか」と問い直す。原因が重複作業や承認待ちにあるなら、作業速度を上げるより業務の仕組みを変える方が効果的かもしれません。

英語学習も同じです。勉強時間を増やす前に「何ができるようになりたいのか」を考える。海外で商談したいなら、単語を覚えるだけでなく、相手の質問に答え、自分の考えを伝える練習が必要です。

努力の量を増やす前に、努力の向きが正しいかを問い直せること。身近な場面でも役に立つ理由です。

Netsujoの開発で役立った4つの事例

最初から「第一原理思考」と呼んでいた事例は一部です。振り返ると、いずれも既存の問題設定を疑ったことが転換点でした。

事例1:SEOの前に、Webサイトの役割を問い直した

自社サイトを改善するとき、検索順位やアクセス数、表示速度などが目に入ります。そこで「企業のWebサイトは何のために存在しているのか?」と考えました。

BtoB企業なら、見込み顧客に見つけてもらい、サービスを理解し、信頼を得て、相談や取引につながることが重要です。検索順位だけを上げても、説明や実績の根拠、問い合わせ導線に問題があれば機会を逃します。

そこで存在 → 発見 → 取得 → 信頼 → 理解 → 行動 → 測定 → 改善という8領域へ分解しました。これが、Web営業改善プラットフォーム「Netsujo SIGNAL」の設計につながりました。

変わったのは機能以上に、何を改善することが顧客の価値なのかという評価軸です。ただし、製品の設計・実装と顧客の売上改善は別の成果であり、後者は利用結果での検証が必要です。

関連:Netsujo SIGNALが生まれるまで

事例2:便利な外部サービスを使い続ける必要があるのか

検索データ分析のためGSC Wizardというサービスを試用しました。継続利用を決める前に「必要なのはサービスそのものか、それとも正しいデータと判断か」と問い直しました。

既存のGoogle認証、公式API、データ保存・分析基盤を再利用する方針へ転換。2026年10月17日には、Netsujoと「みやこでIT」の両サイトで実データを取得・保存し、外部サービスとの通信を遮断してもレポートを再表示できることを検証しました。

初期機能の技術的移行は完了しました。一方、実際の契約解約や削減額はこの技術検証の対象外です。内製の維持費もあるため、買う・借りる・作るの総費用で判断する必要があります。

根拠:GSC Wizard初期移行の受入記録

事例3:AIに役割を与えれば、その役割を守るのか

「報告書を作成する担当者」という役割をAIに与えても、書き込み先は権限の範囲内に限られます。役割を説明することと、操作の権限があることは別です。

そこで、役割・権限・作業範囲・引き継ぎ条件を機械的に検査するOSS「Agent Role Contracts(ARC)」を開発しています。CrewAIとの設定接続実験では、許可されたファイルへの出力がPASS、権限外へ変更するとFAIL、元に戻すとPASSになることを確認しました。

これは設定情報の検証であり、実行時の網羅的な安全性は今後の確認対象です。それでも、「もっと正確な指示を書く」から「守るべき条件を検証可能にする」という方向へ問いが変わりました。

根拠:CrewAIアダプタの検証

事例4:AIに何度も修正させれば、いつか完成するのか

あるAI開発では50コミットに及ぶ修正が繰り返され、同じ種類の重大な問題が何度も指摘されました。局所的な修正を続けるほど、似た問題が別の形で現れたのです。

「個々の修正の精度が低いのか。それとも設計そのものに問題があるのか」と問い直しました。そこで、同種の重大な問題が反復したとき、局所修正を続ける前に設計境界を再評価する仕組みを設計しました。

この仕組みには実装・運用検証が残っています。重要なのは、失敗を修正し続けるより、失敗を生み続ける構造を疑う方が有効な場面があるという学びです。

根拠:反復するレビュー修正を戦略の見直しへつなぐ設計

それでも、第一原理思考は簡単ではない

自分の思い込みほど、気づきにくい

経験を積むほど「この場合はこうするものだ」という判断が身につきます。それは専門性である一方、新しい選択肢を見えにくくすることもあります。自分自身の成功体験も検証対象にする姿勢が必要です。

事実と推測を分けるには、知識も調査も必要

医療の手順や建築の安全基準には、専門知識や過去の事故から得られた理由があります。本当の制約を理解するには、専門家の知識やデータが必要です。何が分かっていて、何が不明なのかを厳密に扱うことが欠かせません。

過去の判断を捨てる勇気がいる

長く続けた仕事が不要かもしれない。多額の費用をかけたシステムが目的に合っていないかもしれない。これまでに使った資源と、これから選ぶべき方法を分けて考えるには覚悟がいります。

思いついた答えを、現実で確かめる必要がある

理屈として合理的でも、組織の事情や実際の利用環境によって機能しないことがあります。別の方法と比較し、小さく試し、誰の何が改善されたかで評価することが重要です。

第一原理思考を実践する5つの問い

  1. 本当は何を実現したいのか? 「会議を短くする」より「意思決定を早くする」のように、手段と目的を分ける。
  2. 今、確実に分かっていることは何か? 観察した事実、聞いた情報、自分の推測を分ける。
  3. 何が本当の制約なのか? 法律、安全、予算、他者との約束と、慣習や過去の方法を区別する。
  4. 今の方法を前提にしなければ、どんな選択肢があるか? 改善する、減らす、やめる、置き換える。従来の方法も候補として比較する。
  5. どのように結果を確かめるか? 小さく試す方法と合格条件を決め、予想が外れたら前提を見直す。

例えば週次会議なら、一回だけ資料共有と短い打ち合わせに変えてみる。意思決定までの時間、認識のずれ、参加者の負担を比較し、良くなれば続け、悪くなれば理由を調べる。その程度の小さな実験から始められます。

第一原理思考は、考えるだけで終わらせず、観察と検証を繰り返すことで実践的な力になります。

いつでも第一原理から考える必要はない

すべての問題を毎回ゼロから考え直すと、かえって時間がかかります。特に役立つのは、努力しても成果が出ないとき、同じ失敗が繰り返されるとき、環境の変化で従来の方法が通用しないとき、大きな投資や重要な意思決定をするときです。

既存の方法で十分に成果が出ているなら、そのまま使うのも合理的です。第一原理思考を使うべきかどうかも、目的と費用対効果から判断します。

「当たり前」を疑うことは、可能性を広げること

私たちNetsujoは、技術を使って人の可能性をひらくことを目指しています。そのためには、新しい技術を使うだけでなく、何を実現すべきかを問い続ける必要があります。

誰が何に困っているのか。なぜ解決されなかったのか。本当に変えられないものは何か。今ある知識や技術を組み合わせたら、何が可能になるのか。

この問いは、事業やソフトウェアの開発に限らず、仕事のやり方や学び方を考える人にも役立ちます。思い込みを手放すのは難しく、調査には手間がかかり、試行錯誤には失敗も伴います。それでも、自分で考えて選び直す道があります。

第一原理思考を使いこなすには訓練と検証が必要です。それでも、誰もが自分の可能性を広げるために学ぶ価値のある考え方です。

もし今、一生懸命取り組んでいるのにうまくいかないことがあるなら、努力を増やす前に一度、問いを変えてみてください。

「自分は、本当は何を実現したいのだろう?」

その問いが、これまで見えていなかった選択肢を見つけるきっかけになるかもしれません。

Netsujo株式会社

技術で、人の可能性をひらく。

第一原理に基づく開発・価値発見の設計記録