— Web3 / コラム
Web3とブロックチェーンの本質的価値はどこにあるのか
公開: 2026-06-10 / 著者: 飯田友広(Netsujo 代表取締役)
Web3やブロックチェーンについて語るとき、避けて通れない問いがあります。
それは、「本質的な価値は本当にあるのか。それとも、投機や一時的な流行によって作られた虚構にすぎないのか」という問いです。
この問いに対して、Netsujo株式会社は、楽観にも悲観にも寄りすぎない立場を取っています。
ブロックチェーンやWeb3には、確かに過剰な期待、投機的な盛り上がり、実態の乏しいプロジェクトが存在してきました。暗号資産価格の上昇を前提にした事業、実需のないNFT、形だけのDAO、ユーザーにとって意味の薄いトークン設計なども少なくありません。
一方で、それだけを見て「Web3には価値がない」と結論づけるのも早計です。
Web3の本質は、暗号資産の価格や流行語そのものにあるのではありません。複数の参加者が関わるネットワークにおいて、信頼、記録、権利、貢献、報酬、ガバナンスをどのように設計するかにあります。
Netsujoは、Web3を単なる金融・投機領域ではなく、地域、産業、行政、生活者が関わる現実の課題に接続するための技術基盤として捉えています。
ブロックチェーンは「高性能なデータベース」ではない
まず前提として、ブロックチェーンは万能な技術ではありません。
一社の中で完結する顧客管理、在庫管理、社内ワークフロー、会計管理などであれば、通常のデータベースの方が速く、安く、管理しやすい場合がほとんどです。
むしろ、ブロックチェーンは処理速度、コスト、ユーザー体験、法務・会計・運用面において、従来システムより扱いが難しい部分もあります。
したがって、すべてをブロックチェーンに載せる必要はありません。
重要なのは、「普通のデータベースでは何が足りないのか」を見極めることです。
その答えの一つが、組織をまたぐ信頼コストです。
企業、自治体、地域住民、施設運営者、デバイス設置者、データ利用者など、複数の主体が関わる場合、誰か一社がすべての記録を持ち、すべてのルールを決める形には限界があります。
- 記録の正しさをどう確認するのか。
- 貢献をどう評価するのか。
- 権利や報酬をどう分配するのか。
- 途中から参加する人に、過去の経緯をどう説明するのか。
- 一部の事業者が撤退しても、ネットワークをどう維持するのか。
こうした問いが生まれる領域では、ブロックチェーンやWeb3の考え方が意味を持ちます。
Web3の価値は「信用を不要にすること」ではない
Web3の説明では、しばしば「トラストレス」という言葉が使われます。
ただし、これは「誰も信用しなくてよい」という意味ではありません。
現実の社会では、完全に信用をなくすことはできません。デバイスを設置する人、データを使う人、サービスを提供する事業者、制度を整える行政、保守する開発者など、さまざまな主体への一定の信頼は必要です。
Web3の価値は、信用をゼロにすることではなく、検証できる範囲を広げることにあります。
- 誰が何を行ったのか。
- いつ記録されたのか。
- どの条件で権利が移転したのか。
- どの貢献に対して報酬が発生したのか。
- どのルールに基づいて判断されたのか。
こうした情報を、特定の一社だけに依存せず、複数の参加者が確認できる形で扱えることに価値があります。
「分散」が生む価値
Web3を理解するうえで、もう一つ重要なのが分散という考え方です。
分散という言葉は、しばしば「中央管理者がいないこと」や「非中央集権」として説明されます。しかし、それだけでは十分ではありません。
分散の価値は、単に中心をなくすことではありません。むしろ、複数の主体が参加しながら、ネットワーク全体として機能を維持し、拡張していけることにあります。
分散が価値を持つ場面は、大きく四つあります。
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一点障害を減らす価値
中央集権型のシステムでは、特定の企業、サーバー、管理者、予算、意思決定に依存しやすくなります。その主体が止まれば、サービスも止まる。その企業が撤退すれば、データやネットワークも失われる。その管理者が方針を変えれば、参加者は従うしかない。 もちろん、中央集権型の方が効率的な場面も多くあります。責任主体が明確で、運用も速いからです。しかし、長期にわたって多くの人や組織が関わるインフラでは、一つの主体に依存しすぎることがリスクになります。 分散型ネットワークでは、複数の参加者がリソースを提供することで、特定の一社や一拠点が止まっても、ネットワーク全体を維持しやすくなります。これは、通信、ストレージ、センサー、地図、気象、位置情報、地域安全のような領域で特に重要です。
2
参加可能性を広げる価値
分散のもう一つの価値は、参加の入口を広げられることです。従来のインフラ整備では、大きな資本を持つ企業や行政が中心となり、設備投資を行い、利用者にサービスを提供する形が一般的でした。 一方で、DePINのような分散型インフラでは、個人、地域事業者、施設、農家、物流事業者、店舗、コミュニティなどが、自分の持つデバイス、場所、データ、通信環境、移動手段をネットワークに提供できます。 つまり、インフラの利用者だった人が、インフラの提供者にもなり得ます。これは、地方や過疎地のように、既存の大規模インフラ投資が届きにくい領域と相性があります。地域の人が小さく参加し、その貢献が記録され、一定の価値に変換される。ここに、分散が生む新しい参加可能性があります。
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中立性を高める価値
複数の企業や団体が関わる領域では、誰が記録を管理するかが問題になります。たとえば、ある一社がすべてのデータを持ち、すべてのルールを決める場合、他の参加者はその企業を信頼する必要があります。 もちろん、それで問題ない場合もあります。しかし、競合企業同士、自治体と民間企業、地域住民と事業者、データ提供者とデータ利用者のように、利害が完全には一致しない関係では、中立的な記録基盤が求められます。 ブロックチェーンは、特定の一社の内部データベースではなく、複数主体が共通のルールで参照できる記録基盤を作ることができます。これは、完全な公平性を自動的に実現するという意味ではありません。しかし、少なくとも「誰か一社の都合だけで記録が変更されるのではない」という前提を作りやすくなります。 この中立性は、Web3が単なる技術ではなく、ネットワーク設計の思想として重要である理由の一つです。
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インセンティブによってネットワークを拡張する価値
分散型ネットワークは、参加者が自発的にリソースを提供しなければ成り立ちません。そこで重要になるのが、インセンティブ設計です。 通信カバレッジを提供する。ストレージ容量を提供する。GPU計算資源を提供する。道路映像を収集する。気象データを提供する。車両データを共有する。センサーやカメラを設置する。 こうした貢献に対して、報酬や権利、評価、利用メリットを設計することで、ネットワークを拡張していくことができます。 ここで重要なのは、報酬そのものが目的ではないということです。報酬は、実需のあるネットワークを成長させるための手段です。需要がないまま報酬だけを配る設計は、長続きしません。 価値のある分散型ネットワークでは、参加者の貢献が、誰かの実際の課題解決につながります。そして、その課題解決から生まれた価値の一部が、貢献者に還元されます。この循環を設計することが、Web3やDePINにおける事業設計の中心になります。
分散は、必ずしも「完全分散」である必要はない
ここで注意したいのは、分散型であることを過度に理想化しないことです。
すべてを完全に分散させればよいわけではありません。
ユーザーサポート、法務対応、安全管理、品質保証、事故時の責任、自治体や企業との契約、緊急時の判断などは、明確な責任主体が必要です。
そのため、現実のWeb3事業では、完全な非中央集権よりも、分散型の仕組みと、責任ある運営主体を組み合わせる設計が重要になります。
Netsujoが目指すのも、単に管理者をなくすことではありません。
地域や産業の中で複数の参加者が関われる余地を作りながら、必要な品質管理、運用設計、安全管理、顧客対応は事業者として責任を持つ。そのうえで、記録、参加、貢献、報酬、データ流通の部分にWeb3の仕組みを取り入れていく。
このような現実的な分散設計が、これからのWeb3社会実装には必要だと考えています。
虚構に見えるWeb3と、実装されるWeb3の違い
Web3が虚構に見えるのは、多くの場合、技術そのものではなく、設計の問題です。
特に、次のようなWeb3は長続きしにくいと考えています。
- トークン価格の上昇だけを価値の根拠にしている
- 誰の課題を解決するのかが曖昧
- 既存システムで十分なのに、無理にブロックチェーンを使っている
- 参加者への報酬原資が、次の参加者の購入に依存している
- データや権利の扱いが不明確
- 法務、会計、税務、個人情報、利用者保護への配慮が弱い
一方で、実装されるWeb3には、次のような特徴があります。
- 複数主体が関わる領域である
- 共通の記録基盤が必要である
- 参加者の貢献を可視化する意味がある
- 権利や報酬の移転を扱う必要がある
- 一社だけでは集めにくいデータやリソースを扱う
- 需要側が明確である
- 技術よりも、事業設計と運用設計を重視している
この違いを見極めることが、Web3を正しく社会実装するうえで重要です。
DePINは、Web3が現実世界に接続する領域
Web3の本質的価値が見えやすい領域の一つが、DePINです。
DePINとは、Decentralized Physical Infrastructure Networksの略で、通信、ストレージ、GPU、センサー、地図、気象、車両、位置情報など、現実世界のインフラやデータ収集を分散的に構築する考え方です。
DePINでは、参加者が物理的なリソースを提供します。たとえば、
- 通信機器を設置する。
- ストレージ容量を提供する。
- GPU計算資源を提供する。
- 車両にデバイスを接続する。
- 気象センサーを設置する。
- カメラやセンサーで地域のデータを収集する。
その貢献が記録され、需要に応じて利用され、報酬や評価につながる。
ここでは、Web3の価値が比較的わかりやすく現れます。なぜなら、分散、記録、貢献、報酬、ネットワーク拡張が、現実世界のインフラ構築と直接結びつくからです。
NetsujoがYaseiGridに取り組む理由
Netsujo株式会社は、Web3を金融・投機領域に閉じるのではなく、地域や産業の課題に接続する技術として捉えています。
その具体的な取り組みの一つが、YaseiGridです。
YaseiGridは、AIカメラやセンサーを活用して、クマなどの鳥獣リスクを検知し、地域や施設、農業者、自治体、住民に必要な情報を届けることを目指すプロジェクトです。
鳥獣被害や野生動物との接触リスクは、地域にとって現実的な課題です。しかし、すべての地域に高価な監視設備や常時運用体制を整えることは簡単ではありません。
そこでYaseiGridでは、地域の参加者、施設、事業者、自治体などが関わりながら、分散的に検知ネットワークを構築することを目指しています。
単にカメラを設置するだけではありません。
- 誰がどこにデバイスを設置したのか。
- どのような検知が行われたのか。
- どの情報が地域の安全判断に使われたのか。
- どの参加者がネットワーク維持に貢献したのか。
- その貢献をどのように評価し、将来的に還元できるのか。
こうした要素を含めて設計することで、YaseiGridはWeb3スタートアップとしてのNetsujoが取り組む、地域課題型のDePINプロジェクトになります。
YaseiGridにおける「分散」の意味
YaseiGridにおける分散とは、単にブロックチェーンを使うことではありません。
地域の安全を、特定の行政機関や一社だけに依存させるのではなく、地域に関わる複数の主体が少しずつ参加できる形にすることです。
- キャンプ場が設置する。
- 農業者が設置する。
- 林業関係者が設置する。
- 観光施設が設置する。
- 自治体が一部を支援する。
- 住民や地域団体が情報を受け取る。
- 事業者がデータを管理し、通知や分析を提供する。
このように、複数の主体が関わることで、地域のリスク情報はより細かく、より継続的に蓄積されます。
もちろん、安全に関わる領域である以上、無責任な完全分散は適していません。誤検知、未検知、通知遅延、データの取り扱い、プライバシー、機器の故障、責任範囲などは慎重に設計する必要があります。
そのため、YaseiGridでは、分散型の参加構造と、事業者としての責任ある運用を両立させることが重要になります。
これは、Netsujoが考えるWeb3社会実装の方向性でもあります。
Web3は、社会に埋め込まれて初めて価値を持つ
Web3やブロックチェーンの価値は、技術単体では決まりません。
- どの課題に使うのか。
- 誰が参加するのか。
- どの記録を共有するのか。
- どの権利を扱うのか。
- どの貢献を評価するのか。
- どのように報酬や責任を設計するのか。
これらが結びついて初めて、Web3は実用的な価値を持ちます。
Netsujoは、Web3を一時的な流行としてではなく、複数の主体が関わる社会課題を解くための設計思想として捉えています。
YaseiGridは、その考え方を地域安全や鳥獣リスク対策に応用する取り組みです。
地域に点在するデバイス、データ、参加者、判断、貢献をつなぎ、より持続可能な安全インフラを作る。そのための基盤として、Web3やDePINの考え方を活用していきます。
おわりに
Web3やブロックチェーンは、すべての課題を解決する魔法の技術ではありません。
しかし、複数の主体が関わり、共通の記録、権利の移転、貢献の可視化、報酬設計、中立的なネットワーク運営が必要になる領域では、確かな価値を持ち得ます。
特に、分散によって一点障害を減らし、参加可能性を広げ、中立性を高め、インセンティブによってネットワークを拡張できる点は、Web3が現実世界に接続するうえで重要な特徴です。
Netsujoは、Web3を金融や投機の文脈だけで捉えるのではなく、地域、産業、行政、生活者の課題に接続する技術として実装していきます。
YaseiGridは、その第一歩です。
分散型の地域安全データネットワークを通じて、鳥獣リスクという現実の課題に向き合いながら、Web3の価値を社会の中で検証していきます。
この記事が向いている方
Web3 / ブロックチェーンの「本質的価値」を整理したい事業企画・経営層
投機や流行ではなく、社会実装としての Web3 を検討中の自治体・大企業 DX 担当者
DePIN / YaseiGrid を含む地域 × Web3 の共創を模索する事業者・研究機関
Web3 社会実装の壁打ち
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