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— 壁打ち事例 #03

自治体担当者から「観光 × Web3」相談を受けて、最初に整理した 5 つの論点

公開: 2026-06-06 / 著者: 飯田友広(Netsujo 代表取締役)

— 1 行で答えると

自治体におけるWeb3事業では、技術選定に入る前に「予算サイクル / 補助金前提 / 法務範囲 / 住民説明可能性 / 撤退基準」の 5 つを整理しておくと、議会・住民・関係部署に説明しやすい実装計画に近づけることができます。
Web3導入の必然性は「技術的に新しいから」ではなく、「住民・観光客・地域事業者にとって納得できる価値があるか」を起点に考えることが重要です。

相談者様の状況(匿名化)

ある自治体の観光振興部署の担当者様から、「観光客の来訪体験をNFTで残し、リピートや関係人口の創出につなげたい」という構想について、壁打ち相談を受けました。隣接自治体の事例も参考にしながら、来年度予算に組み込めないか検討している、というスケジュール感でした。

お話を伺う中で、「予算編成までに上司・財政課・議会・住民にどう説明するか」「補助金前提で組むか、単独予算で組むか」「観光客の行動データや個人情報の懸念が出たときにどう答えるか」など、技術以外にも事前に整理しておいたほうがよい論点があることが見えてきました。

観光NFTやWeb3施策は、アプリやスマートコントラクトを作るだけで完結するものではありません。自治体事業として進めるには、予算、制度、法務、説明責任、継続判断まで含めて、無理のない形に整えていくことが大切です。

最初の壁打ちで整理した5つの論点

論点01

予算サイクルに合わせた事業計画

自治体予算は年度単位で編成されるため、「いつ予算要求を出すか」「実証フェーズと本格展開フェーズをどの年度に分けるか」が、最初に確認したい論点となります。
観光分野のWeb3施策ではいきなり本格導入を目指さずに以下のような段階設計にすると、庁内外への説明がしやすくなります。

  • 現年度: 調査・要件整理・住民説明・小規模実証
  • 翌年度: 実証結果を踏まえた拡張実証
  • 翌々年度: 本格展開または別施策への転用

「来年度から本格展開」を前提にすると、予算要求、庁内調整、議会説明、調達手続きが十分に間に合わない場合があります。
自治体案件では技術開発スケジュールだけでなく、予算編成と説明責任のスケジュールを先に確認しておくと計画に無理が出にくくなります。

また、当初予算だけでなく、補正予算や国・都道府県の交付金を組み合わせる選択肢もあります。ただし、補正予算は自治体ごとの事情に左右されるため、早い段階で財政担当部署や関係部署と確認しておくことが安全です。

論点02

補助金前提の事業設計

観光分野のWeb3施策は、地方創生、観光 DX、関係人口創出、地域消費促進、スマートシティ、デジタル実装などの文脈で補助金・交付金の対象になり得ます。

ただし、制度名や補助率は年度ごとに変わります。たとえば、以前は「デジタル田園都市国家構想交付金」として説明されていた領域も、現在は「新しい地方経済・生活環境創生交付金」などの枠組みで整理される場合があります。記事や提案書では、制度名を固定して書きすぎず、最新の公募要領を確認する前提で表現しておくと安心です。

補助金活用の場合は、以下を事前に確認します。

  • 申請主体は自治体か、民間事業者か
  • 補助対象経費にシステム開発費・運用費・広報費・専門家費用が含まれるか
  • 補助率、上限額、交付決定時期、事業完了期限はどうなっているか
  • 効果検証やKPI報告が求められるか
  • 補助期間終了後の運用費を誰が負担するか

特に確認したい点は、「補助金要件が求める成果指標」と「自治体が本来達成したい成果指標」がずれていないかです。
補助金の採択を意識しすぎると、住民・観光客にとっての価値よりも、申請書上の見え方が優先されてしまうことがあります。

補助金は初期費用を下げる有効な手段です。しかしその一方で、事業の目的そのものではありません。補助金が終わった後も続ける意味があるかを、最初に確認しておくことが大切です。

論点03

法務範囲の事前整理

観光NFTで気をつけたい法務論点は、主に以下です。

  • 個人情報保護法・プライバシー: 観光客の属性、位置情報、行動履歴、ウォレットアドレス、アンケート情報など
  • 景品表示法: NFTや特典を配布する場合の景品類該当性、表示内容、参加条件
  • 資金決済法: NFTやトークンが決済手段、前払式支払手段、暗号資産等に該当しないか
  • 金融商品取引法:収益分配、投資性、二次流通による値上がり期待を前面に出していないか
  • 契約・利用規約:NFTの保有者に何の権利があるのか、譲渡可否、失効条件、特典の変更可能性

ここで注意したいのは、「NFTは所有権の表現であり、金融商品ではない」と一律に説明しないことです。一般的な記念NFTや参加証明NFTは、金融商品や暗号資産に該当しにくい設計も可能です。一方で、設計によっては資金決済法や金融商品取引法の検討対象になる場合があります。

たとえば、以下のような設計は、事前に慎重な確認が必要です。

  • NFTを持っていると地域店舗で支払いに使える
  • NFTに換金性や二次流通益を強く訴求する
  • NFT保有者に売上や収益の分配を行う
  • NFTとポイント、商品券、ステーブルコインを組み合わせる
  • 位置情報や行動履歴を個人単位で長期保存する

自治体向けの初期説明では、「NFTだから安全」「NFTだから規制対象外」と説明するよりも、「観光記念・参加証明・来訪履歴の範囲に用途を絞り、決済性・投資性・過度な換金性を持たせない設計にする。そのうえで、必要に応じて弁護士に確認する」と整理したほうが、関係者に安心してもらいやすくなります。

最終的な法的判断は、弁護士・関係機関に確認する必要があります。ただ、最初の論点整理でリスクの範囲をある程度絞っておくことで、法務相談も進めやすくなるでしょう。

論点 04

住民説明の前提設計

自治体事業では、技術的に実現できるかだけでなく、「住民にどのように説明できるか」が重要になります。

観光 × Web3 では、以下のような点をなるべく専門用語を使わずに説明できるようにしておくと安心です。

  • なぜ通常のアプリやデータベースではなくWeb3を使うのか
  • 住民にどのような利益があるのか
  • 観光客にどのような体験価値があるのか
  • 地域事業者に送客・再訪・購買面のメリットがあるのか
  • 個人情報や位置情報はどこまで取得し、何に使うのか
  • 暗号資産・投資・投機とは何が違うのか
  • 事業が想定通り進まなかった場合、どの時点で見直すのか

特に、住民・議会からは「Web3は暗号資産とどのような関係があるのか」「ハッキングのリスクはないのか」「税金で実証実験をする意味はあるのか」といった質問が出る可能性があります。これらに対して、専門用語ではなく行政文書として説明できる言葉に落としておくことが大切です。

説明の軸としては、「観光客の来訪体験をデジタル上に残し、再訪や地域回遊につなげる」「自治体は個人を追跡するのではなく、同意に基づく利用データや集計データを施策改善に使う」「地域事業者への送客や関係人口づくりに活かす」といった形が考えられます。

ただし、「観光客の行動データを観光客自身の管理下に戻す」といった表現は、設計によっては強すぎる場合があります。実際にユーザーがデータ管理権限を持つ設計にしていない場合は、より慎重な表現にしたほうがよいです。

住民説明では、技術の先進性よりも、以下を明確にすることが重要です。

  • 何を取得しないのか
  • 何を匿名化・集計化するのか
  • 誰がデータを管理するのか
  • 何年保存するのか
  • 住民や観光客が拒否・削除・問い合わせできるのか

自治体Web3事業では、「できること」だけでなく「やらないこと」を明確にすることで、関係者の不安を減らしやすくなります。

論点05

撤退基準と次年度判断

実証フェーズの撤退基準は、補助金要件や庁内の次年度判断と整合させた形で、事前に定義しておくと説明しやすくなります。
観光 × Web3の場合、撤退基準には以下のような指標が考えられます。

  • 参加者数
  • NFT取得率
  • 観光客満足度
  • 再訪意向
  • 地域店舗への送客数
  • 特典利用率
  • アプリ継続利用率
  • 問い合わせ・離脱・トラブル件数
  • 運用にかかった職員工数
  • 1参加者あたりの獲得コスト

ここで注意したいのは、「参加者数が多ければ成功」とは限らないことです。観光施策としては、地域回遊、再訪意向、地域事業者への効果、住民説明可能性、運用負荷まで含めて見る必要があります。

実証結果が事前に設定した基準を下回った場合は、本格展開フェーズに進まず、「実証で得た知見を踏まえて別の施策に活用する」という判断も選択肢になります。撤退基準を文書化しておくことで、議会・財政課からの「次年度も続けるのか」という問いに対して、定量的に説明しやすくなります。

自治体事業では、撤退基準を決めることは後ろ向きな判断ではありません。税金を使う以上、「想定通りに進まなかった場合に、どの条件で見直すのか」まで説明できることが、事業への信頼につながります。

よくある3つの誤解

誤解1:他自治体の事例があれば導入できる

他自治体事例は、とても有効な参考材料になります。一方で、予算サイクル・補助金状況・住民構成・観光資源・議会説明の難易度は自治体ごとに異なるため、そのまま転用できない場合もあります。

重要なことは、「どの自治体がやったか」だけでなく、「その自治体では何を課題として、どんなKPIで、どの予算枠で、どの体制で実施したのか」です。事例紹介で終わらせず、自分の自治体に置き換えた場合の差分を整理することが大切です。

誤解2:補助金が取れれば事業は成立する

補助金は、実証フェーズの初期投資を支える有効な手段です。一方で、本格展開後の運用費、人件費、保守費、広報費、問い合わせ対応費まで自動的に解決してくれるものではありません。

補助金期間終了後の「自走モデル」を最初に設計しておかないと、補助金終了後に事業継続が難しくなる場合があります。
自治体Web3事業では、実証予算だけでなく、2年目・3年目の運用費を誰が負担するかまで確認しておくことが重要です。

誤解 3: Web3を使わない方が良いという結論はあり得ない

壁打ちの結果として、「この用途ではWeb3ではなく通常のデータベースで十分」となることもあります。

例えば、短期キャンペーンで参加者にスタンプを付与するだけであれば、通常のアプリや二次元コードを活用したスタンプラリーのほうが、安く、早く、説明しやすい場合があります。一方で、自治体をまたいだ参加証明、長期的な関係人口の可視化、改ざんしにくい来訪証明、地域外でも持ち運べるデジタル会員証のような用途では、Web3を検討する意味が出てきます。

「技術ありき」ではなく、「住民・観光客・地域事業者への価値ありき」で判断することで、Web3を使う場合も使わない場合も、納得感のある結論に近づきます。

その後の整理

この相談者の場合、5論点を文書化したうえで、上司・財政課・議会・住民への説明資料を順次作成していくことになりました。
補助金については、特定の制度名を決め打ちせず、最新の国・都道府県制度を確認しながら検討する方針に整理しています。

現年度は、いきなり開発に入るのではなく、「住民説明・庁内説明・法務論点整理・小規模フィージビリティ検討」に充てる形にしました。
そのうえで、翌年度以降に実証予算を組むか、既存の観光DX施策に統合するかを判断する流れです。

Q&A

Q. 自治体Web3事業の予算規模はどれくらいですか?

事業範囲によって大きく変わります。小規模な調査・要件整理・壁打ちであれば数十万円から、観光NFTやデジタルスタンプラリーの小規模実証であれば数百万円規模、本格的なアプリ開発・既存システム連携・地域事業者連携まで含めると1,000万円を超えることもあります。 ただし、「実証段階で 300 〜 1,000万円」「本格展開で 1,000 〜 3,000万円」といった数字は、あくまで設計範囲による目安です。 補助率も制度によって異なり、50 〜 80%と一律に言い切るのは避けたほうが安全です。 実務上は、最初に「調査・設計」「小規模実証」「本格展開」の 3段階に分け、それぞれ別予算として整理するのが進めやすいです。

Q. Web3を観光に使う必然性をどう説明すれば良いですか?

「Web3が話題だから」「他自治体がやっているから」だけでは、住民説明・議会説明で十分に伝わらない可能性があります。説明したいのは、Web3を使うことで、従来のアプリやデータベースでは実現しにくい価値があるかです。 例えば、以下のような用途では Web3を検討する意味があります。 - 自治体や事業者をまたいで使える来訪証明・参加証明を発行する - 観光客が自分の来訪履歴や参加履歴を持ち運べる - 証明書や参加履歴の改ざん耐性を高める - 地域回遊や再訪の履歴を、本人同意に基づいて活用する - 複数の地域・事業者が共通ルールで参加できる仕組みにする 一方で、短期的なキャンペーンや単発のスタンプラリーであれば、Web3を使わないほうが安く、早く、説明しやすい場合もあります。 Web3の必然性は、「分散性」「改ざん耐性」「持ち運び可能なデジタル証明」「複数主体間の共通基盤」が必要かどうかで判断します。

Q. 京都府以外の自治体・全国対応は可能ですか?

はい、全国対応しています。Netsujo は京都府Chain Up KYOTOワーキンググループ参加メンバーですが、相談対象は京都府内に限りません。 オンラインMTGを基本としつつ、必要に応じて現地訪問も対応しています。 自治体ごとに、予算サイクル、議会説明、観光資源、地域事業者の巻き込み方、補助金活用の方針は異なります。そのため、最初の相談では「どの技術を使うか」よりも、「何を達成したいか」「誰に説明する必要があるか」「どの年度で判断するか」から整理します。

この記事が向いている方

  • 自治体の観光振興・関係人口・DX 推進部署で Web3 / NFT 活用を構想中の担当者

  • 自治体向け Web3 補助金活用を検討中の事業者・コンサルティング会社

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京都府 Chain Up KYOTO 参加メンバーとして、自治体特有の意思決定構造を踏まえた壁打ちを受け付けています。京都府以外の自治体も対応可能です。

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