NETSUJO LAB 001 — TRUSTED EXTERNAL DATA
ブロックチェーンの オラクル問題を、
「外部API接続」ではなく 「信頼設計」として捉え直す。
スマートコントラクトに外部データを渡すとき、問題はAPIへ接続できるかではありません。その値を、なぜ信頼できるのか。誰が確認し、どの証拠を残し、異常時に誰が止めるのか。Netsujo Labは、複数ソース検証、信頼スコア、人間レビュー、監査ハッシュを組み合わせたOracle Agentの参照設計を公開します。
- STATUS
- REFERENCE ARCHITECTURE
- STAGE
- DESIGN / LOCAL MVP SPECIFICATION
- PRODUCTION
- NOT YET
- VERSION
- 0.1.0
OFF-CHAIN WORLD
不確実な外部世界
- API A
- API B
- CSV
- Manual evidence
- Signed data
- Sensor / location / inventory
ORACLE DECISION LAYER
検証と判断のレイヤー
- Normalize
- Schema validation
- Freshness validation
- Source agreement
- Signature validation
- Trust score
- Human review
- Audit hash
ON-CHAIN CONTRACT
検証可能な最小証跡
- approved value
- observedAt
- sourceCount
- trustScore
- auditHash
— EXECUTIVE SUMMARY
オラクル問題の本質は、ブロックチェーンの外側にある「事実」を、ブロックチェーン自身では検証できないことです。
— 定義
オラクル問題とは、スマートコントラクトがブロックチェーン外部の事実を直接確認できず、外部データの取得元、正確性、鮮度、改ざん耐性、責任主体を別途設計しなければならない問題です。
- 1スマートコントラクトは、外部世界の事実を自力で確認できない
- 2データソースを複数にしても、真実が保証されるわけではない
- 3必要なのは、ソースの多重化、鮮度、乖離、署名、履歴、責任分界を組み合わせた信頼設計である
- 4LLMは異常説明やレビュー補助には使えるが、最終的な真偽判定者にしてはいけない
- 5オンチェーンにはrawデータを大量保存せず、値、時刻、ソース数、判定、監査hashなど最小限の証跡を載せる
— オラクル問題とは
スマートコントラクトは、 現実世界を 自分では見られない。
結論から言うと、スマートコントラクトが一般的なWeb APIを任意に直接参照する構造は成立しません。ブロックチェーンは、ネットワーク参加者が同じ入力から同じ結果を再現できる必要があります。一方、外部APIの結果は、取得時刻、接続先、地域、障害、改ざんで変わり得ます。全員が同じ答えを再現できない入力は、合意形成を壊してしまうためです。
そこで、外部情報を取得し、検証し、オンチェーンへ渡す仕組みが必要になります。これがオラクルです。
現実世界の事実
↓
API / センサー / 管理者 / 署名者
↓
オラクル
↓
スマートコントラクト
— 本研究の中心メッセージ
オラクル問題は、正しいAPIを一つ選ぶ問題ではない。
本質は、外部世界の不確実な情報を、どの程度の証拠、検証、責任分界でスマートコントラクトへ渡すかというガバナンス設計です。
この6つの設計原則を、以降のすべてのセクションで繰り返し参照します。
— THREAT MODEL
何を防ぐ設計なのか。
この参照設計は、次の8つの脅威への対応を目的にしています。逆に言えば、この表にない脅威(経済インセンティブ設計や談合耐性など)は本研究の対象外です。
| 脅威 | 例 | 対応方針 |
|---|---|---|
| データ改ざん | APIレスポンスの書き換え | 署名確認、複数ソース、raw response保存 |
| 単一障害点 | 1社API停止 | requiredSources、代替ソース |
| 価格操作 | 薄い市場の瞬間価格 | 中央値、乖離率、時間窓 |
| 古いデータ | キャッシュ・通信遅延 | observedAt / fetchedAt、鮮度閾値 |
| 投稿者不正 | 管理鍵の悪用 | allowlist、multi-sig、権限分離 |
| API形式変更 | field名・型の変更 | zod schema validation |
| ブラックボックス化 | 採用理由を説明できない | decision reason、audit log |
| LLM幻覚 | 存在しない値の生成 | LLMをデータソースにしない |
— HYPOTHESIS
外部データは「取得」ではなく「証拠の束」として扱う。
単一の値を直接オンチェーンへ渡すのではなく、複数ソース、観測時刻、乖離、署名、履歴、判定理由を一つの証拠パッケージとして扱えば、完全な真実保証はできなくても、採用判断の透明性と監査可能性を高められる。
研究対象
price / weather / inventory / event / generic
研究対象外
- 経済インセンティブを含むDON全体の安全性証明
- Byzantine fault toleranceの形式検証
- 市場操作耐性の実証
- 本番資産を扱うオラクル運用
- TEE / ZKの実装検証
— REFERENCE ARCHITECTURE
取得、検証、判断、証跡を分離する。
Oracle Agentは、取得・正規化・検証・スコアリング・判定・出力を分離したパイプラインです。各ノードを開くと、入力・処理内容・出力・失敗条件・責任主体を確認できます。どのレイヤーで失敗しても、その理由が監査ログに残ることが設計の中心です。
HUMANUser / Admin
- INPUT
- 事業要件(対象データ・許容乖離・鮮度・レビュー閾値)
- PROCESS
- OracleRequestの発行とpolicyの決定
- OUTPUT
- OracleRequest
- FAILURE
- policy設計の誤り(閾値が用途に合っていない)
- 責任主体
- 事業責任者・管理者
AGENTOracle Agent
- INPUT
- OracleRequest
- PROCESS
- 取得〜判定までのオーケストレーションと監査ログ記録
- OUTPUT
- OracleDecision / Audit Log
- FAILURE
- エージェント自体の停止(単一障害点にしない運用設計が必要)
- 責任主体
- システム運用者
OFF-CHAINData Source Connectors
- INPUT
- OracleRequest(対象・ソース定義)
- PROCESS
- allowlist内の各ソースへ取得を実行し、raw responseを保存
- OUTPUT
- SourceResult[]
- FAILURE
- 取得失敗、タイムアウト、allowlist外ドメイン
- 責任主体
- 各データソース提供者+コネクタ実装者
VALIDATIONNormalization Layer
- INPUT
- SourceResult[](raw)
- PROCESS
- 単位・型・時刻表現の正規化
- OUTPUT
- 正規化済みSourceResult[]
- FAILURE
- 単位不明・型変換不能
- 責任主体
- コネクタ実装者
VALIDATIONValidation Engine
- INPUT
- SourceResult[]
- PROCESS
- schema / source agreement / freshness / threshold / signature
- OUTPUT
- ValidationResult
- FAILURE
- 型不一致、必要ソース数不足、許容乖離超過、データ鮮度超過
- 責任主体
- 検証ロジック設計者
VALIDATIONTrust Scoring Engine
- INPUT
- ValidationResult+ソース履歴
- PROCESS
- 多様性・合意・鮮度・履歴の重み付き合成と異常減点
- OUTPUT
- TrustScore(内訳付き)
- FAILURE
- 履歴不足時の初期値扱い、重み設定の誤り
- 責任主体
- スコア設計者(重みは用途ごとに責任を持って調整)
DECISIONDecision Layer
- INPUT
- TrustScore+policy
- PROCESS
- approved / needs_human_review / rejectedの判定と理由生成
- OUTPUT
- OracleDecision
- FAILURE
- 判定は必ず返す(迷う場合はレビューへ回す設計)
- 責任主体
- 自動判定+閾値帯は人間レビュー担当者
ON-CHAIN / RECORDOutput
- INPUT
- OracleDecision
- PROCESS
- JSON Record・Audit Log・Human Review Request・Blockchain Submission Payloadの生成
- OUTPUT
- approved時のみ投稿payload(それ以外はblocked)
- FAILURE
- approved以外での投稿試行(投稿レイヤーで拒否)
- 責任主体
- 投稿者(allowlistアドレス・重要データはmulti-sig)
— DATA MODEL
証拠パッケージを構成する5つの型
依頼(OracleRequest)から判定(OracleDecision)まで、証拠がどのように構造化されるかを重要フィールドで示します。完全な型定義は設計書(Markdown)に掲載しています。
OracleRequest
何を・どの条件で取得するかの依頼
| id | リクエスト識別子 |
| oracleType | 'price' | 'weather' | 'inventory' | 'event' | 'generic' |
| target | 対象(例: ETH/USD、倉庫Aの在庫) |
| requiredSources | 採用に必要な最小ソース数 |
| maxSourceDeviationRate | 許容乖離率 |
| freshnessThresholdSec | 鮮度閾値(秒) |
| humanReviewThreshold | 人間レビューへ回すスコア閾値 |
| createdAt | 作成時刻 |
SourceResult
各ソースからの取得結果(raw込みの証拠)
| sourceId / sourceName / sourceType | ソース識別情報 |
| value / unit | 観測値と単位(精度保持のため値は文字列) |
| observedAt | 元データの観測時刻 |
| fetchedAt | 取得時刻。observedAtと必ず分離する |
| rawData | raw response(オフチェーン保存のみ) |
| success / error | 取得成否と失敗理由 |
ValidationResult
検証の合否と根拠
| isValid | 検証全体の合否 |
| errors / warnings | 却下要因とレビュー要因の区別 |
| sourceAgreementRate | 許容乖離内で合意したソースの割合 |
| deviationRate | 中央値基準の乖離率 |
| freshnessOk | 鮮度閾値内か |
TrustScore
採用判断の補助指標(真実度ではない)
| totalScore | 重み付き合成スコア(0〜100) |
| sourceDiversityScore | ソース多様性 |
| sourceAgreementScore | ソース間合意 |
| freshnessScore | 鮮度 |
| historicalReliabilityScore | ソースの履歴信頼度 |
| anomalyPenalty | 異常による減点 |
| requiresHumanReview | 人間レビュー要否 |
OracleDecision
最終判定と監査証跡
| status | 'approved' | 'needs_human_review' | 'rejected' |
| finalValue | 採用値(中央値ベース) |
| trustScore / validation | スコアと検証結果への参照 |
| reason | 判定理由(人間が読める形式) |
| auditHash | 監査ログのハッシュ |
| createdAt | 判定時刻 |
— VALIDATION ENGINE
値だけではなく、値が成立した条件を検証する。
1. Schema Validation
外部レスポンスをzodで検証します。型・必須項目・日時形式が不正なデータは、値の中身を見る前に採用候補から外します。API仕様の静かな変更を最初に検知する層でもあります。
2. Source Agreement
価格データの例:
maxDeviationRate = abs(max - min) / median
基準に中央値を使うのは、平均値より外れ値の影響を受けにくいためです(分母は中央値の絶対値。気温のように値が0近傍になり得るデータでは、比率ではなく絶対差の閾値を使う設計が必要です)。ただし、中央値も真実を保証しません。過半数のソースが同じ誤情報を返せば、中央値はその誤情報になります。
3. Freshness Validation
now - observedAt <= freshnessThresholdSec
fetchedAt(取得時刻)とobservedAt(観測時刻)を分けます。取得した時刻が新しくても、元データの観測時刻が古い可能性があるためです。キャッシュされた古い値を「新鮮な取得」と誤認しないための分離です。
4. Threshold Validation
閾値は用途ごとに異なります。以下は固定ルールではなく設計例です。
| oracleType | 許容乖離の例 | 鮮度の例 |
|---|---|---|
| price | 0.5〜2.0% | 60〜300秒 |
| weather | 5〜10% | 1800〜3600秒 |
| inventory | 原則0% | 300〜3600秒 |
| event | 0〜5% | 3600秒〜1日 |
上記は参照値です。資産規模、更新頻度、障害時の影響、データ取得方式に応じて個別設計が必要です。
— TRUST SCORE
信頼スコアは「真実度」ではなく、採用判断の補助指標。
totalScore = sourceDiversityScore * 0.20 + sourceAgreementScore * 0.30 + freshnessScore * 0.20 + historicalReliabilityScore * 0.20 - anomalyPenalty * 0.10
| スコア | 判定 |
|---|---|
| 80以上 | approved |
| 60〜79 | needs_human_review |
| 59以下 | rejected |
この重みと閾値は研究用の参照設計です。スコアは外部世界の真実を保証しません。用途ごとの損失許容度、データ更新頻度、ソース構成、法的責任に応じた調整が必要です。
だからこそ、スコアを単一のゲージとして見せるのではなく、内訳・理由・警告を必ず併記します。後述のシミュレーターでも同じ方針です。
— DECISION FLOW
判定フロー
判定は「必ず理由付きで返す」ことを優先します。迷うケースは自動承認せず、人間レビューへ回します。
requiredSourcesを満たすか
schema validationを通過するか
鮮度・乖離・署名に問題があるか
trust scoreとpolicyを確認
— ORACLE DECISION SIMULATOR
判定がどう変わるか、手を動かして確かめる。
ソース数、値、観測時刻、失敗状態を変更すると、検証・信頼スコア・判定がどう変わるかを確認できます。すべて例示用データのローカル計算で、入力値が外部へ送信されることはありません。
STATIC EXAMPLE — シナリオ「One outlier」の実行例(例示用データ)
入力
- Source A: 3760.12(30秒前・署名あり)
- Source B: 3761.05(45秒前・署名あり)
- Source C: 3916.00(25秒前・署名あり)
- policy: requiredSources=3 / 許容乖離2% / 鮮度300秒
出力
NEEDS HUMAN REVIEW
- normalizedValue(中央値): 3761.05
- deviationRate: 4.14%
- trust score: 62 / 100
警告があるため自動承認せず、人間レビューへ回します(trust score 62)。
— HUMAN REVIEW
自動化できない判断を、曖昧なまま残さない。
レビュー閾値帯の判定は、ReviewAgentが「何が問題か」「どのソースが乖離しているか」「なぜ自動承認できないか」を整理し、承認・再取得・却下の選択肢と推奨アクションを提示します。判断者・判断時刻・判断理由は監査ログに残ります。
STATUS: NEEDS HUMAN REVIEW
REASON
Source C is 6.8% above the median and exceeds the allowed deviation rate of 2.0%.
RECOMMENDED ACTIONS
- Source Cを再取得
- 代替ソースを追加
- 市場停止・異常相場を確認
- 判定を却下
— LLM BOUNDARY
AIは説明者になれる。しかし、真実の判定者にはしない。
AIとWeb3の両方を扱う会社として、Netsujoはこの境界を明確にします。LLMには幻覚のリスクがあり、検証データの生成者や最終判定者に置いた瞬間、監査可能性が崩れます。
任せてよい
- ソース間差分の説明
- 人間レビュー向けの要約
- 異常理由の仮説出し
- データソース候補の提案
- audit logの自然言語化
任せてはいけない
- 最終的な真偽判定
- 価格データの生成
- APIレスポンスの代替
- 署名検証の代替
- オンチェーン投稿の自動承認
— ON-CHAIN FOOTPRINT
すべてをオンチェーンに載せるのではなく、検証可能な最小証跡を残す。
オンチェーン保存コスト、プライバシー、更新頻度、削除不能性を考慮し、raw responseや個人情報は直接載せません。投稿できるのはapprovedの判定だけで、payloadは次の形を想定しています。
{
"requestId": "oracle_20260521_001",
"oracleType": "price",
"target": "ETH/USD",
"value": "3760.12",
"unit": "USD",
"observedAt": "2026-05-21T10:00:00Z",
"trustScore": 87,
"sourceCount": 3,
"auditHash": "0x..."
}- 投稿者アドレスを制限(allowlist)
- payload hashを保存
- raw dataはオンチェーンに載せない
- オフチェーン監査ログのhashのみオンチェーンへ記録
- 重要データはmulti-sig承認
- approved以外は投稿しない
— FAILURE TEST MATRIX
正常系より、失敗時の設計を先に公開する。
この設計で重視するのは「正常に動くこと」より「失敗が説明可能な形で止まること」です。ローカルMVPで検証対象とする10ケースを公開します。
| # | Input | Expected validation | Expected decision | Expected log | On-chain |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3ソースのうち1つが極端に乖離 | 乖離超過を検出(中央値基準) | needs_human_review / rejected | 乖離ソース名と乖離率を記録 | blocked |
| 2 | 観測時刻(observedAt)が古い | freshnessOk = false | rejected | 鮮度超過の秒数を記録 | blocked |
| 3 | requiredSources未達 | ソース数不足エラー | rejected | 有効ソース数と必要数を記録 | blocked |
| 4 | API取得失敗 | success=falseを除外して再評価 | 残存ソース数に依存 | 失敗ソースとエラー内容を記録 | 条件付き |
| 5 | normalizedValue不正 | schema / 型エラー | rejected | 不正値のraw responseを保存 | blocked |
| 6 | trustScoreがレビュー閾値未満 | 検証は通過 | needs_human_review | スコア内訳と理由を記録 | blocked |
| 7 | approved以外でpayload投稿を試行 | — | 投稿レイヤーで拒否 | 拒否イベントを記録 | blocked |
| 8 | API schema変更 | zod検証エラー | rejected | スキーマ差分を記録 | blocked |
| 9 | 署名欠落 | signature警告 / エラー | policy次第でreview / rejected | 未署名ソースを記録 | blocked |
| 10 | allowlist外ドメイン | コネクタ層で拒否 | ソース除外として扱う | 拒否ドメインを記録 | blocked |
— APPLICATIONS
価格オラクルだけではない。企業の実世界データへ応用する。
この参照設計が主に想定するのは、汎用フィードが存在しない企業固有のデータです。各ユースケースで「何をオンチェーンへ載せるか」より先に、次の6つを問います。
- 1.誰が事実を観測するか
- 2.観測者が不正をする動機はあるか
- 3.何件の証拠が必要か
- 4.どの程度の鮮度が必要か
- 5.誤判定時の損失は何か
- 6.誰が停止・再判定できるか
— POSITION
既存の分散型オラクルネットワークとの関係
本研究は、既存の分散型オラクルネットワークを置き換えるものではありません。汎用的な価格フィードや外部計算には既存サービスを利用する方が合理的な場合があります。Netsujoの参照設計は、企業固有の在庫、イベント、来訪、業務データなど、既存の汎用フィードだけでは扱いにくい外部データについて、取得・検証・責任分界・監査を整理するためのものです。
Chainlink・Pyth等の各ネットワークの仕様は、参考文献に挙げた各社一次資料をご確認ください。本ページでは優劣の断定やランキングは行いません。
— LIMITATIONS
この設計でも、外部世界の真実を完全には保証できない。
誠実な研究であるために、この設計が抱えたままの限界を隠さず並べます。ここに挙げた項目は、導入判断の際のリスク整理のたたき台として使えます。
- 複数ソースが同じ誤情報を参照する可能性
- 独立して見えるソースが同じ一次ソースに依存する可能性
- 署名は送信者を証明しても、内容の真実性までは証明しない
- 人間レビュー担当者が不正・誤判断する可能性
- trust scoreの重みが誤っている可能性
- 突発的な市場変動と攻撃の区別
- オンチェーン反映までの遅延
- 経済インセンティブと談合耐性
- 規制・契約上の責任分界
— RESEARCH ARTIFACTS
研究成果物
公開研究として、成果物は登録なしで直接読めます。ローカルmock MVPの実装・テスト結果・リポジトリは、公開でき次第このカードに追加します(存在しないものは載せません)。
PLANNED
GitHubリポジトリ / テスト結果 / JSONサンプル
ローカルmock MVPの実装後に、package version・test results・coverage・commit hash・licenseとあわせて公開予定です。
— AUTHOR / CHANGELOG
著者・レビュー・更新履歴
この記事の著者

飯田 友広
代表取締役
Netsujo株式会社 代表取締役。京都発のWeb3・AI実装スタートアップを2023年6月に創業。京都府ワーキンググループ「Chain UP KYOTO」参画(2026-03-10)、京都美術工芸大学での講義・龍谷大学でのセミナー実績、ITコミュニティ「みやこでIT」(connpassメンバー592名・イベント158回以上・2019年2月から運営・2026年6月時点)運営。NPO法人NEMTUS理事、BAR KRYPTO運営。ソーシャル企業認証「S認証」認証企業(2026年2月認証・2026年4月公表)。技術領域はWeb3/ブロックチェーン/DID/NFT/生成AI/コミュニティ運営。
プロフィールを見る| Published | 2026-07-05 |
| Last updated | 2026-07-05 |
| Version | 0.1.0 |
| Research status | REFERENCE ARCHITECTURE |
| Implementation status | DESIGN / LOCAL MVP SPECIFICATION |
| Test status | ローカルMVPのテストは未公開(公開後に本表を更新) |
| Production usage | NOT YET |
| Technical review | Pending |
Changelog
- v0.1.0(2026-07-05)— Initial reference architecture published
外部データをオンチェーンへ渡す前に、
「誰が、何を、なぜ信じるか」を設計する。
Netsujoは、オラクルネットワークそのものを販売する会社ではありません。事業要件に合わせて、どのデータを、誰の責任で、どこまで検証し、どの証跡をオンチェーンへ残すかを整理し、PoCと実装仕様へ落とし込みます。
— REFERENCES
参考文献
- Oracles — ethereum.org Developer Documentation ↗
Ethereum Foundation / 最終確認日: 2026-07-05
オラクルの基本概念と、スマートコントラクトが外部データを直接取得できない理由の一次解説。
- SoK: Oracles from the Ground Truth to Market Manipulation ↗
Eskandari, Salehi, Gu, Clark(arXiv:2106.00667) / 最終確認日: 2026-07-05
オラクルの分類と市場操作リスクを体系化した研究論文。
- Chainlink Whitepapers ↗
Chainlink / 最終確認日: 2026-07-05
分散型オラクルネットワークの設計思想(既存DONの一次資料)。
- Pyth Network Documentation ↗
Pyth Network / 最終確認日: 2026-07-05
Pull型価格オラクルの一次ドキュメント。
- Zod Documentation ↗
Zod / 最終確認日: 2026-07-05
本参照設計のschema validationで用いるTypeScriptスキーマ検証ライブラリ。
— FAQ
よくある質問
ブロックチェーンのオラクル問題とは何ですか?
スマートコントラクトがブロックチェーン外部の事実を直接確認できず、外部データの取得元、正確性、鮮度、改ざん耐性、責任主体を別途設計しなければならない問題です。技術の欠陥ではなく、決定論的なシステムが外部世界と接続する境界に必ず生じる設計課題です。
スマートコントラクトはなぜ外部APIを直接呼べないのですか?
ネットワークの全参加者が同じ入力から同じ結果を再現できる必要があるためです。外部APIの結果は取得時刻・接続先・障害・改ざんで変わり得るため、任意のWeb APIを直接参照する構造は合意形成と両立しません。
複数のAPIを使えばオラクル問題は解決しますか?
解決しません。複数ソースは単一障害点を減らしますが、全ソースが同じ誤情報や同じ一次ソースに依存する可能性は残ります。多重化に加えて、鮮度・乖離・署名・履歴・責任分界を組み合わせた信頼設計が必要です。
Chainlinkを使えば独自設計は不要ですか?
汎用的な価格フィードには既存の分散型オラクルを使う方が合理的な場合が多いです。一方、企業固有の在庫・来訪・イベント・業務データは汎用フィードが存在しないことが多く、取得・検証・責任分界を個別に設計する必要があります。
信頼スコアが高ければデータは正しいのですか?
いいえ。信頼スコアは「真実度」ではなく採用判断の補助指標です。ソース多様性・合意・鮮度・履歴から算出しますが、外部世界の真実は保証しません。だからこそ内訳と理由を記録し、閾値帯では人間レビューを挟みます。
AIやLLMでオラクル問題を解決できますか?
できません。LLMは異常の説明やレビュー補助には有効ですが、幻覚のリスクがあるため真偽の最終判定者やデータソースにしてはいけません。本研究ではLLMの役割を「説明者」に限定しています。
RWAではどのような外部データが必要ですか?
実物資産の在庫数、倉庫保管証明、鑑定データ、償還処理の完了など、トークンの価値の裏付けとなる実世界の事実です。これらは汎用価格フィードでは扱えないため、観測者・証拠数・鮮度・監査証跡の個別設計が必要になります。
オラクルの監査ログには何を残すべきですか?
各ソースのraw response、観測時刻と取得時刻、検証の合否と理由、スコア内訳、最終判定と判断者です。後から「なぜこの値を採用したか」を第三者が追跡できることが目的で、ログ全体のhashをオンチェーンへ残します。
rawデータをオンチェーンへ保存するべきですか?
原則、保存すべきではありません。保存コスト、プライバシー、削除不能性の問題があるためです。オンチェーンには採用値・観測時刻・ソース数・判定・監査hashなど検証可能な最小証跡だけを載せ、rawはオフチェーンで保管します。
Netsujoはどこまで支援できますか?
オラクルネットワーク自体の販売ではなく、事業要件の整理からの支援です。どのデータを、誰の責任で、どこまで検証し、どの証跡をオンチェーンへ残すかを整理し、PoC設計と実装仕様へ落とし込みます。構想段階からご相談いただけます。
ブロックチェーンは、記録されたデータを強く守れます。
しかし、そのデータが現実世界で正しかったかまでは、自動では証明できません。
だから必要なのは、チェーンへ書き込む前の設計です。
誰が観測し、何件の証拠を集め、どの条件で採用し、異常時に誰が止めるのか。
Netsujoは、この責任分界をPoCと実装仕様へ落とし込みます。