Web3導入で失敗しやすい
7つの論点
検討段階で見落としがちなリスクと対策
Web3導入の検討は増えていますが、実際に事業化まで到達するケースはまだ少数です。多くは技術の問題ではなく、検討段階の論点整理が不十分なまま進んでしまうことが原因です。本記事では、企業がWeb3・ブロックチェーン導入で陥りやすい7つの論点と、それぞれの対策を整理します。
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なぜWeb3プロジェクトは失敗するか
Web3・ブロックチェーン技術への企業の関心は高まり続けています。NFT、RWA(現実資産のトークン化)、DID(分散型ID)、ステーブルコインなど、適用領域は拡大しています。しかし、検討を開始したプロジェクトのうち、事業として稼働するところまで到達するものは限られています。
失敗の原因を分析すると、技術的な実装の問題よりも、検討段階での論点整理の不足に起因するものが大半です。技術選定の根拠が曖昧なまま開発に着手する、法規制の確認を後回しにする、運用コストの見積もりが甘い——こうした問題は、検討段階で適切な論点を洗い出していれば回避できたものばかりです。
本記事では、Web3導入で企業が陥りやすい7つの論点を取り上げ、それぞれについて具体的な対策を提示します。
本記事の対象
- ▸Web3・ブロックチェーン導入を検討中、または検討開始を予定している企業
- ▸過去にWeb3プロジェクトを進めたが頓挫した経験がある企業
- ▸新規事業としてWeb3領域への参入を企画中の担当者
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論点01: 「ブロックチェーンである必要性」の検証不足
分散型台帳が本当に必要なケースは限定的。DBで十分な場合にBCを選ぶと、コストとスピードの両方を失う
ブロックチェーンは「改ざん耐性」「透明性」「非中央集権的な信頼」を提供する技術ですが、これらの特性が事業上必須でないケースにまで適用されることがあります。既存のリレーショナルDBやクラウドサービスで同等の機能を実現できる場合、ブロックチェーンを選択することは開発コストの増大、トランザクション速度の低下、運用の複雑化を招きます。
対策と判断基準
判断基準は明確です。「複数の組織間でデータの信頼性を担保する必要があるか」「中央管理者を置けない、または置くべきでない構造か」——この2つの問いにYesと答えられない場合、ブロックチェーン以外の選択肢を先に検討すべきです。
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論点02: チェーン選定の根拠が薄い
「Ethereumが有名だから」で選んでしまう。ガス代・TPS・エコシステムの実態を検証すべき
チェーン選定は、プロジェクトのコスト構造・性能特性・将来のスケーラビリティを決定する重要な判断です。しかし実際には「Ethereumが最も知名度が高いから」「Polygonが安いと聞いたから」という表層的な理由で選定されるケースが散見されます。
対策と判断基準
チェーン選定では最低限、以下の観点での比較が必要です。ガス代の実績値と変動幅、TPS(秒間トランザクション処理数)と実際のファイナリティ時間、開発者エコシステムの厚み(SDK・ドキュメント・コミュニティ)、バリデータの分散度合いとネットワークの安定性。これらを自社の要件と照合して初めて、合理的なチェーン選定が可能になります。
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論点03: 法規制の確認が後回し
特にトークン発行・RWA・決済領域では、金融商品取引法・資金決済法の該当性を初期段階で確認する必要がある
技術的な実現可能性を先に検証し、法規制の確認を後回しにするプロジェクトは珍しくありません。しかし、トークン発行・RWA(現実資産のトークン化)・暗号資産決済を含むプロジェクトでは、金融商品取引法・資金決済法・犯罪収益移転防止法などの規制が適用される可能性があります。
対策と判断基準
開発が進んだ段階で法的リスクが判明すると、設計の根本的な見直しが必要になります。最悪の場合、プロジェクト自体が法的に実現不可能という結論に至り、それまでの投資がすべて無駄になります。法務確認は技術検証と同時に、できれば先に着手すべきです。Web3に精通した弁護士やリーガルアドバイザーの早期参画が不可欠です。
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論点04: 運用設計の欠如
スマートコントラクトのアップグレード戦略、秘密鍵管理、障害時の復旧手順が設計されていない
ブロックチェーン上のスマートコントラクトは、一度デプロイすると原則として変更できません。バグが見つかった場合のアップグレード戦略(Proxy Pattern等)、管理者権限の秘密鍵をどこで誰が管理するか、ノード障害時の復旧手順——これらの運用設計が開発段階で検討されていないプロジェクトは、本番リリース後に重大なインシデントを引き起こすリスクがあります。
対策と判断基準
特に秘密鍵管理は、ブロックチェーンプロジェクト特有かつ最も重要な運用課題です。マルチシグ(複数署名)の導入、HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)の利用、鍵のローテーション手順、緊急時の権限移譲フローなど、従来のWebサービスとは異なる運用体制の設計が求められます。
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論点05: コスト見積もりの甘さ
開発費だけでなく、ガス代・ノード運用・監査費用・法務費用を含めた総所有コストを見積もるべき
Web3プロジェクトの予算策定で頻繁に見落とされる要素が、開発費以外のコストです。スマートコントラクトの監査費用(1回あたり数百万円〜)、ガス代(トランザクション量に比例して増加)、ノード運用費(自前運用の場合)、法務アドバイザリー費用——これらを含めた総所有コスト(TCO)で予算を組まなければ、プロジェクト途中での予算超過が発生します。
対策と判断基準
さらに、チェーンのガス代は市場状況によって大きく変動します。Ethereumメインネットでは、混雑時にガス代が通常の10倍以上に跳ね上がることもあります。固定費として見積もるのではなく、変動費として幅を持った予算設計が必要です。
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論点06: ユーザー体験の軽視
ウォレット接続・ガス代負担・トランザクション待ち時間が、一般ユーザーにとって障壁になる
Web3サービスの利用には、ウォレットの作成・接続、ガス代の準備、トランザクションの署名と確認待ち——従来のWebサービスにはない手順が必要です。暗号資産やNFTに慣れたユーザーにとっては日常的な操作ですが、一般ユーザーにとっては大きな障壁です。この障壁を軽視したまま開発を進めると、技術的には優れたサービスでも利用者が定着しません。
対策と判断基準
ガスレス取引(メタトランザクション)、ソーシャルログインによるウォレット生成、アカウントアブストラクション(ERC-4337)など、UXを改善する技術は進歩しています。ただし、これらの導入には追加の開発コストとアーキテクチャ設計が必要です。ユーザー体験の設計は、技術選定と同時に検討すべき事項です。
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論点07: 社内の合意形成不足
技術部門と経営層のWeb3理解にギャップがあり、プロジェクトが空中分解する
Web3は技術的な専門性が高く、経営層やビジネスサイドにとって理解が難しい領域です。技術部門が「ブロックチェーンで実現できること」を説明しても、経営層が「それが事業にどう貢献するのか」を理解できなければ、予算承認や人員配置の意思決定が滞ります。逆に、経営層がWeb3のバズワードに期待を膨らませ、技術部門が「その期待は現実的ではない」と感じているケースもあります。
対策と判断基準
この理解ギャップを埋めるには、技術と事業の両方を翻訳できる人材——あるいは外部パートナー——の存在が重要です。技術的な実現可能性を事業的なインパクトに変換して伝える「翻訳者」がいるかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。
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検討段階で押さえるべき3つの原則
7つの論点に共通するのは、「技術の検討が先行し、事業判断に必要な他の要素が後回しになる」という構造です。以下の3原則を検討の初期段階で確認することで、プロジェクトの成功確率を大きく高めることができます。
BC必要性の検証を最初に行う
プロジェクト開始時に「ブロックチェーンでなければ実現できないことは何か」を明確にします。この問いに具体的に答えられない場合、技術選定を見直すか、ブロックチェーンを使わない代替アーキテクチャを先に検討すべきです。技術ありきではなく、課題ありきで判断します。
法規制・運用・コストを技術選定と同時に検討する
法務確認、運用設計、TCO算出を技術検証と同じタイムラインで進めます。技術的には実現可能でも法的にNGであれば意味がなく、運用コストが事業モデルに合わなければ持続できません。これらを並行して検討することで、後戻りのリスクを最小化します。
PoCで小さく検証してから本格投資する
7つの論点すべてを一度に解決しようとせず、最もリスクの高い論点から小さなPoCで検証します。1つの論点が解消されるたびにプロジェクトの不確実性が下がり、次の投資判断の精度が上がります。「全体設計→大型開発」ではなく「仮説検証→段階的投資」のアプローチを採用します。
判断のポイント
Web3導入の検討は、技術的な興味やトレンドへの対応から始まることが多いですが、事業化に到達するには技術以外の論点——法規制、運用、コスト、UX、社内合意——を同時に扱う必要があります。これらの論点を自社だけでカバーすることが難しいと感じた場合、Web3領域の実務経験を持つ外部パートナーとの協業を検討するタイミングです。
Netsujoの支援体制
Netsujoでは、Web3プロジェクトの構想整理段階から参画し、技術選定・法規制確認・運用設計・コスト見積もりを含めた包括的な検討支援を行っています。技術実装だけでなく、事業判断に必要な材料を揃えるところまでを支援範囲としています。
導入検討の整理支援
ブロックチェーンの必要性検証、チェーン選定の技術比較、法規制の初期確認、TCO概算まで。検討段階の論点を漏れなく整理します。
PoC〜本番移行の伴走
検証設計から実装、経営判断への翻訳、本番移行計画まで。検討段階で整理した論点を検証で確認し、事業化までの道筋を作ります。
まとめ
Web3導入で企業が陥りやすい論点は、ブロックチェーンの必要性検証、チェーン選定、法規制、運用設計、コスト見積もり、ユーザー体験、社内合意の7つに集約されます。いずれも技術的な実装の問題ではなく、検討段階での論点整理の不足に起因しています。
対策の基本原則は3つです。ブロックチェーンの必要性検証を最初に行うこと。法規制・運用・コストを技術選定と同時に検討すること。PoCで小さく検証してから本格投資すること。この順序を守ることで、後戻りのリスクと無駄な投資を最小化できます。
本記事で取り上げた論点のいくつかが自社の検討で見落とされていると感じた場合、プロジェクトを先に進める前に論点整理を行うことを推奨します。検討の初期段階で論点を網羅的に洗い出すことが、Web3プロジェクト成功の最も確実な一歩です。
この記事が向いている方
Web3・ブロックチェーン導入を検討中の企業担当者
新規事業としてWeb3プロジェクトを企画中の方
過去にWeb3プロジェクトが頓挫した経験のある方