Web3・ブロックチェーン
日本のSTO・不動産RWA
実務ガイド
— 規制、関係者、発行前の確認事項
RWAやSTOという言葉は、技術と金融商品の説明が混ざりやすい領域です。
RWAは、現実世界の資産や権利をデジタル化して扱う広い呼び方です。法律上の一つの分類ではありません。同じ「不動産トークン」でも、投資家が持つ権利、発行方法、販売相手、譲渡方法によって、適用される制度と必要な事業者が変わります。
本記事は、日本でSTOや不動産RWAを検討する企業が、発行前に整理すべき実務論点をまとめたものです。個別案件の法的判断は、弁護士、金融商品取引業者、信託銀行、税理士などの専門家へ確認してください。
この記事の要点
RWAは法律上の一つの分類ではありません。投資家が取得する権利、発行方法、販売相手、譲渡方法によって、適用される制度と必要な事業者が変わります。
技術選定の前に、投資家や利用者が取得する権利を言語化します。トークンを発行するコードを作るだけでは、STOは成立しません。
この記事は論点整理までを扱います。個別案件の法的判断は、弁護士、金融商品取引業者、信託銀行、税理士などの専門家へ確認してください。
— 01
最初に「何をトークン化するか」を定義します
技術選定の前に、投資家や利用者が取得する権利を言語化します。ここが決まらないまま基盤やチェーンを選ぶと、後戻りが大きくなります。
対象になり得る権利の例
- 株式
- 社債
- 投資信託・ファンド持分
- 信託受益権
- 不動産そのものの権利
- 収益分配を受ける権利
- 会員権・利用権
- ポイント
- 商品や役務と交換できる権利
- 所有・真正性を示す証明
同じブロックチェーン上のトークンでも、有価証券、暗号資産、電子決済手段、前払式支払手段、NFTなど、法的な扱いは異なります。
「RWAを発行したい」という要望を、そのままシステム要件にしてはいけません。要望の背後にある権利と資金の流れを先に確認します。トークン化の全体像はRWA(実物資産トークン化)の基礎でも整理しています。
— 02
STOとは何か
STOは、Security Token Offeringの略称として、有価証券に該当する権利をブロックチェーンなどの電子的な仕組みで発行・移転する取り組みを指します。
日本では、電子記録移転有価証券表示権利等を含むセキュリティトークンが金融商品取引法の枠組みで扱われます。勧誘、販売、媒介、保管、開示などには、権利の種類と取引方法に応じた規制対応が必要です。
トークンを発行するコードを作るだけでは、STOは成立しません。
関連する公式情報
- 金融庁: 「所得税法施行令第五十一条の三第一項第二号の規定に基づき要件を定める件」等について(2024年4月1日。電子記録移転有価証券表示権利等に該当する社債の、税務上の特定管理方法に係る要件を定めた告示)
- 金融庁: 令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について(2024年6月27日。主な改正内容の一つとしてセキュリティトークン関連の見直しが挙げられています。案に対する意見募集は終了しています)
- 日本STO協会(自主規制規則・会員情報)
制度は改正されます。検討時点の内容は、上記の公式情報と専門家の確認で最新かどうかを確かめてください。
— 03
不動産RWAの代表的な構造
不動産を直接ブロックチェーン上の所有権へ置き換えるとは限りません。実務では、信託や特別目的会社、ファンドなどを使い、不動産から生じる収益や受益権を投資商品として設計する方法があります。
検討時に確認する項目
- ☐不動産の所有者
- ☐信託の有無
- ☐投資家が取得する権利
- ☐賃料・売却益の分配方法
- ☐物件管理の責任者
- ☐鑑定・評価方法
- ☐災害・空室・修繕リスク
- ☐早期売却や償還条件
- ☐譲渡先と二次流通
- ☐税務と会計
「不動産を小口化できる」という説明だけでは、投資判断に必要な情報が足りません。国内の不動産STの動きは不動産RWAの日本の実例と規制でも扱っています。
— 04
発行に関わる主な関係者
案件によって異なりますが、次の関係者が必要になる場合があります。
発行者・資産保有者
どの権利を発行し、調達資金を何に使い、投資家へ何を約束するかを定めます。
組成者・アセットマネージャー
商品設計、資産選定、運用、レポーティングを担当します。
信託銀行・受託者
信託を使う場合、資産の管理、受益権、権利者情報に関わります。
金融商品取引業者
募集、私募、販売、媒介、二次流通など、業務内容に応じて登録業者が関与します。
プラットフォーム・台帳提供者
トークン発行、移転、権利者管理、イベント処理などの技術基盤を提供します。
カストディ・ウォレット関連事業者
秘密鍵、口座、権利者とアドレスの紐付けを管理します。
弁護士・会計士・税理士
法的分類、契約、開示、会計、税務を確認します。
役割を曖昧にすると、障害時や誤送付時に誰が対応するか分からなくなります。契約と運用手順の両方で、担当と連絡経路を先に決めておきます。
— 05
発行前に確認する十の論点
企画の段階で答えを持っておくと、専門家との相談が具体的になります。答えが出ない項目は、そのまま確認事項として残します。
- 1法的分類:投資家が取得する権利は何か。どの法律と自主規制が関係するか。
- 2投資家の範囲:一般投資家、特定投資家、法人、国内居住者など、誰へ販売するか。
- 3勧誘・販売:誰が募集・勧誘・媒介を行うか。WebサイトやSNSでどこまで説明できるか。
- 4開示:リスク、手数料、運用状況、資産評価、利益相反をどう開示するか。
- 5本人確認とAML/CFT:投資家とウォレットをどう紐付け、不正取引や制裁対象を確認するか。
- 6鍵とカストディ:秘密鍵を誰が持ち、紛失・漏えい・相続・組織変更へどう対応するか。
- 7権利移転:ブロックチェーン上の移転と、法的な権利者名簿・台帳が一致するか。
- 8決済:法定通貨、銀行送金、ステーブルコイン、トークン化預金など、どの方法を使うか。取引と決済をどう同期するか。
- 9二次流通:売却先、取引所・PTS、価格形成、流動性、譲渡制限をどう設計するか。
- 10終了・障害:償還、強制移転、凍結、チェーン停止、サービス終了、事業者破綻にどう対応するか。
— 06
プラットフォーム比較で
見るべきこと
「どのブロックチェーンか」だけで比較すると、発行後の運用が見えません。次の観点を揃えて確認します。
- 商品対応:不動産、社債、ファンド、株式など、対象商品を扱えるか。
- 法務・業務連携:金融商品取引業者、信託銀行、権利者管理との接続実績があるか。
- 権限設計:発行、移転、凍結、償還、訂正の権限を分けられるか。
- 個人情報:オンチェーンとオフチェーンの情報をどう分離するか。
- 相互運用:他の台帳、決済、既存証券システムと接続できるか。
- 監査:誰が、いつ、何を実行したか確認できるか。
- 事業継続:プラットフォーム停止時に権利を維持・移行できるか。
- 費用:初期構築、発行、権利者管理、保守、法務、販売、監査を含む総費用を比較するか。
ランキングより、案件の権利構造と運用条件へ適合するかを見ます。機能や提供状況は変わるため、比較の時点で各社の公式情報を確認してください。国内基盤の整理はSTO発行プラットフォームの比較にまとめています。
— 07
二次流通があることと、
売れることは別です
セキュリティトークンには、私設取引システムなど二次流通の仕組みがあります。国内では大阪デジタルエクスチェンジのSTARTが国内の例として挙げられます。取り扱う銘柄、利用できる投資家の範囲、参加できる証券会社などの条件は変わるため、検討時に公式情報で確認してください。
ただし、取引の場が存在しても、常に十分な買い手がいるとは限りません。
投資家向けに説明が必要な項目
- 売却可能な時間
- 参加できる証券会社
- 注文方法
- 価格変動
- 売買成立の可能性
- 手数料
- 譲渡制限
- 償還まで保有する可能性
流動性を保証する表現は避けます。売却できる前提で説明すると、実際に売却できなかったときの説明責任を負えません。
— 08
PoCで検証すべき内容
金融商品を実際に募集する前のPoCでは、模擬トークンや限定環境を使う場合があります。ただし、模擬環境を使えば法令上の手続が不要になるとは限りません。検証の設計が募集・勧誘・販売に該当しないかは、着手前に弁護士や金融商品取引業者へ確認します。
検証項目
- ☐権利モデル
- ☐KYC済みウォレットの登録
- ☐発行・移転・凍結・償還
- ☐誤送付と復旧
- ☐投資家向け画面
- ☐権利者名簿との照合
- ☐分配・利払
- ☐監査ログ
- ☐障害時対応
- ☐運用工数
- ☐本番移行条件
PoCの成功条件を「トークンを送れた」にしないことが重要です。終了条件の決め方はPoCの撤退基準の決め方とPoCの進め方で扱っています。
— 09
Netsujoの支援範囲
Netsujoでは、RWAやSTOの相談を受けた場合、最初に権利、関係者、規制、運用、決済、撤退条件を整理します。
技術検証だけで進められない領域では、金融商品取引業者、信託銀行、弁護士などの専門家との役割分担を前提にします。
ブロックチェーンを採用するかどうかは、整理後に判断します。既存システムや中央管理の方が適切な場合は、その選択肢も示します。
この記事の著者

飯田 友広
代表取締役
Netsujo株式会社 代表取締役。京都発のWeb3・AI実装スタートアップを2023年6月に創業。Webサイトを営業基盤として捉え、経営・営業・検索・生成AI・コンバージョン・計測を横断して課題と改善優先順位を整理する「Netsujo SIGNAL」を設計・運営。京都ビッグデータ活用プラットフォーム参画(小規模企業会員・ベンチャー)、同プラットフォーム発のワーキンググループ「Chain Up KYOTO」参画(2026-03-10)、IVS2026サイドイベント「なぜ京都でWeb3.0ビジネスなのか」を京都府庁旧議場で開催(2026-07-02・Netsujoとして主催、企画・登壇・運営/京都府デジタル政策推進課は共催)。京都美術工芸大学での講義・龍谷大学でのセミナー実績、ITコミュニティ「みやこでIT」(connpassメンバー614名・イベント167件・2019年2月から運営)運営。NPO法人NEMTUS理事、BAR KRYPTO運営。ソーシャル企業認証「S認証」認証企業(2026年2月認証・2026年4月公表)。技術領域はWeb3/ブロックチェーン/DID/NFT/生成AI/コミュニティ運営。
プロフィールを見るこの記事が向いている方
不動産・金融領域でRWAやSTOの企画を任され、発行前に整理すべき論点を把握したい方
トークン化の要望を受けて、システム要件へ落とす前に権利と関係者を確認したい方
プラットフォーム選定を、チェーンの種類ではなく運用条件から検討したい方
— 壁打ち相談
読者のよくある相談
記事を読んだ後に「自分の状況だとどう判断すべきか」を整理するための壁打ち相談を受け付けています。下記のような相談例が当てはまる方は、お気軽にご連絡ください。
Q. 何をトークン化するかが、まだ決まっていません
投資家や利用者が取得する権利を先に言語化します。権利が決まるまで基盤やチェーンは選びません。
Q. 誰に何を依頼すればよいか分かりません
発行者・組成者・信託・金融商品取引業者・基盤提供者・専門家の役割分担を、案件の構造に沿って整理します。
Q. ブロックチェーンを使うべきかどうかを判断したい
論点を整理したうえで判断します。既存システムや中央管理が適切な場合は、その選択肢も示します。
上記いずれかが該当する場合、初回30分の壁打ち相談で論点整理に対応します。記事に書ききれない個別事情を踏まえた判断材料が必要な段階こそ、壁打ちが活きやすいフェーズです。
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